2010年4月24日 一の越

   

雪の大谷開催中は山行を控えるつもりであった。おりしも金曜日までの週間予報では土曜日は雨であった。 日曜日は晴れである。観光客の心理として日曜日に集中するだろうと読んでいた。しかし、直前に土曜日 が晴れになった。昨日までは雪であったのでトレースが消えている可能性があり、ゆっくり朝6時の電車 で向かった。岩峅寺駅での待ち時間に持ってきた新書を読む。若い青年が話しかけていつもの駅風景であ る。立山駅では、ケーブル2時間待ちの状態。7時40分に着いたが出発が9時40分。レストランで読 書時間となった。これで計画が台無し。予定では、午前中に雄山往復して、室堂レストランで暖かい定食 を食べる。その後は、雷鳥撮影にあるところで行くつもりであった。昼飯など準備していなかった。 写真は10:50分に室堂を出てしばらく行った場所です。うっすらと浄土山が見えます。今年は、目印 がなかった。予想通り前日までの雪でトレースはかき消されていた。途中道に迷って雷鳥沢方面に行きに かかった。しかし天候がよかったので有視界登山になった。1.3mほどの雪の壁を越えなければならな い。スノーシューを履いたままなので難儀した。

昨年も同じ時期に来ているが今年はスキーヤー、ボーダーが少ない。登山者は前に数十人まとまって見え る。先に出発出来た幸運の(用意周到の)人たちである。雪は締まっており、歩きやすかった。写真では 分かりにくいがサラの雪面を歩いているのである。

反対側の雷鳥沢方面である。天気が良く心地よい。食事はしないので、コンロ、コッフェル、燃料がない。 そのため、20Lほどのリュックにアイゼンと水のみ入れている。正午までに一の越に着かなければ断念と 誓った。今回は、初詣である。これから始まる立山登山の前に雄山神社に参拝することにしている。昨年 危ないことがたくさんあったが、こうして生きている。信仰心はないが理屈では説明できないことの一つ や二つあってもいいではないか、と思う。「なんとしても参らねばならぬ!」最終バスは17時である。

約40分後、雪質が変わった。スノーシューがほとんど沈んでおらず、ピッケルも先までで止まってしまう。 氷に近い状態になってきた。

やっと一の越山荘と(写真では見えないが)雄山神社が同時に見れる場所まで来れた。天候は申し分ない 青空である。しかし、この写真の10分後に天候が急変した。冷静に考えれば雲の中に入ったということ。 まず、ホワイトアウトになる。50m先の登山者の後を頼りに歩いていたが何も見えなくなった。だた前進 という行動になる。続いて吹雪。雪が激しく振り、風も酷い。寒さで手が冷たくなる。スキー用の手袋なの で高度の高い場所では何にもならなかった。

やっと一の越到着。12時10分であった。写真は、今年から付けられたような風力計である。真横になびいて いるのが分かる。白っぽいのはガスではなく雪です。春から真冬に戻されたような感じである。異常に寒い。 ここでスノーシューをアイゼンに交換しようと手袋を脱いだ。スノーシューをケースに入れ終わった時に、吐き気 が湧いてきた。続いて視野が狭くなった来た。さらに足が熱くなりヘナヘナとなった。手の指はパンパンに腫れて 自分のものではないようだ。危険を感じたので一の越山荘に入り休むことにした。中では10名近い人が休息して いた。こんな状態になったので初めてである。高山病と凍傷とシャリバテが同時に襲ってきたと判断した。土間に 坐りひざを抱えて30分ほど休んでいた。吐き気は酷くなるので、山小屋の主のところへ行きSOSを出そうと 5歩ほど歩いたが、周りの目が気になり言い出せず戻った。すぐに雪が止んだという声が聞こえ10人ばかしが 出て行った。高度を下げなければならない。

山荘前の状態である。大雪警報でもこんなにひどくはない。気温−6℃。風速は10m以上なるようなので 体感温度は−20℃にもなる。これで終わろうと思った。雄山は登らせてくれなかった。体調は最悪のなか 小屋の中でアイゼンを履く。靴が変わったので全然合わない。おまけに、アイゼンバンドの縛り方を忘れて しまった。(間抜けである)適当に結んで早く降りなければと焦っていた。下りはアイゼンでないとだめで ある。もう吹雪の中ターミナルに向かった。道はない。スキー板の後を辿っていった。20分ほど降りたと ころで、先ほどのように視野が狭くなり足に力が入らなくなった。これは疲労によるものではない。指は まだパンパンでリュックのバックルも押して外せない。思わず携帯電話に手がいった。救助要請である。 しかし、どこへかけるかわからない。(あんた、だらけえ)しゃがみこんでしまった。遭難はこういうふう になるんだなあ。目が見えなければ何もできない。山の斜面のスキー板2枚分の幅を歩いているのである。 10cm外れれば山の斜面に転落する。雪なので死ぬ可能性は少ないが、運次第である。ここでくたばって たまるかと、ビンタを食らわし、足を手で叩き気合いを入れた。でも何とか見えて、何とか歩ける状態である。 1歩1歩が勝負である。10分ほどすると猛烈な吐き気が襲って来た。向こうからボーダー2名が歩いて 来るのが見えたが思いっきり雪面に吐いた。2回吐いた。幸いに血は混じっていなかった。直ぐに雪で覆い 隠したがボーダー達は進路を変更していた。標高で2600くらいまで下がってきたとき、風が温かく感じ れた。雄山頂上ははっきり見える。太陽が顔を出した。目が見えるようになった。この時は本当に助かった と思った。でも無理せず2時間ほどかけてターミナルに着いた。

今回、山は登らせてくれなかった。しかし、あのまま雄山登頂を無理強いしていたら四の越辺りで立ち往生 となりヘリ救助の可能性が高かった。自分が登ろうとしたときだけ吹雪になり、離れると晴天である。 なにか縁のようなものを感じた。「何としてもシーズンの最初には雄山に仁義を切らねばならぬ。」
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